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卵母細胞における染色体分配装置の形成機構を解明 -マウスでは動原体が紡錘体形成の「土台」として働く-

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概要

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター染色体分配研究チームの吉田周平上級研究員、橋本周客員研究員(腾博会国际娱乐_腾博会游戏大厅-【官方授权牌照】大学院医学研究科特任准教授、IVFなんばクリニック研究部長)、北島智也チームリーダー、ニューカッスル大学のメアリー?ハーバート教授、IVFなんばクリニックの中岡義晴院長らの国際共同研究グループは、マウスの卵母細胞[1]では、染色体分配を担う紡錘体[2]形成の際に、染色体上の動原体[3]が「土台」として機能するものの、ヒトの卵母細胞では機能しないことを発見しました。

本研究成果は、ヒト卵子で高頻度に見られる染色体数異常の原因の理解につながると期待できます。

卵子[1]が正確につくられるためには、卵母細胞の減数分裂[4]時に二つの極を持つ紡錘体が形成され、それぞれの極に向かって正しい数の染色体が分配される必要があります。多くの動物の体細胞分裂では、中心体[5]が紡錘体の二極性の土台として働きます。しかし、哺乳類の卵母細胞は中心体を持たないことから、紡錘体を形成するための土台が何かはよく分かっていませんでした。

今回、国際共同研究グループは、マウス卵母細胞で二極性の紡錘体が形成されるためには、Ndc80[3]Prc1[6]の二つのタンパク質が染色体上の動原体で機能する必要があることを発見しました。そして、この動原体を土台とする機構はマウス卵母細胞でのみ働き、正しく卵子に染色体を分配するために必須である一方、ヒト卵母細胞では働かないことが分かりました。

本研究は、オンライン科学雑誌『Nature Communications』(5月27日付:日本時間5月27日)に掲載されました。

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補足説明

[1] 卵母細胞、卵子
卵原細胞が増加した後、分化してできた雌性生殖細胞を卵母細胞と呼ぶ。卵母細胞は大きく成長した後、減数分裂を経て受精可能な卵子となる。

[2] 紡錘体
細胞分裂の際に染色体を分配するための細胞内構造で、主に微小管から構成される。

[3] 動原体、Ndc80
動原体は染色体のくびれ部分上に形成されるタンパク質複合体で、Ndc80はその構成タンパク質の一つ。染色体分配の際に、微小管が染色体を動かすための牽引部位となる。体細胞分裂では姉妹染色分体のそれぞれに動原体が一つずつ形成され、減数第一分裂では相同染色体のそれぞれに動原体が一つずつ形成される。

[4] 減数分裂
真核生物の生殖器官(精巣や卵巣)にある生殖細胞で見られる、配偶子(精子や卵子)を作るための特別な様式の細胞分裂。途中でDNAが複製されることなく、2回の細胞分裂(減数第一分裂、減数第二分裂)が起こる。染色体セットの数が半分に減少して配偶子にもたらされるために、減数分裂と呼ぶ。?

[5] 中心体、微小管
「微小管」は細胞内で繊維状の構造をとる細胞骨格の一つである。α/βチューブリンの重合体で、重合?脱重合を可逆的に行うことで形態を変化させる。チューブリン重合の核となる構造を「微小管形成中心」と呼び、多くの動物の体細胞分裂では、主に「中心体」がその役割を果たす。?

[6] Prc1
Prc1は逆方向性微小管の架橋タンパク質で、体細胞分裂では染色体分配後の細胞質分裂に必要である。

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究(A)「卵母細胞に特有 な動原体の役割(研究代表者:北島智也)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「配 偶子インテグリティの構築(領域代表者:林克彦)」などによる支援を受けて行われました。

論文情報

<タイトル>
Prc1-rich kinetochores are required for error-free acentrosomal spindle bipolarization during meiosis I in mouse oocytes

<著者名>
Shuhei Yoshida, Sui Nishiyama, Lisa Lister, Shu Hashimoto, Tappei Mishina, Aurélien Courtois, Hirohisa Kyogoku, Takaya Abe, Aki Shiraishi, Meenakshi Choudhary, Yoshiharu Nakaoka, Mary Herbert and Tomoya S. Kitajima

<雑誌>
Nature Communications

<DOI>
10.1038/s41467-020-16488-y